屋根置き型太陽光発電が停滞している3つの原因とは?

太陽光発電において、ソーラーシェアリングと並んで環境負荷が少ないのが屋根置き型太陽光発電です。

屋根置き型太陽光は、2012年の固定買取り制度開始以降、住宅の屋根を中心に飛躍的に普及が進んできました。しかし最近になり、屋根置き型の太陽光発電の普及に陰りが見え始めています。

そこで今回は、屋根置き型の太陽光発電の普及が停滞しはじめている3つの要因とその解決策について取り上げます。

要因1: 買取り価格の低下で採算が取れないという誤解

一番大きな要因と考えられるのが、年々低下する太陽光発電の固定買取り価格(FIT価格)により、採算が取れないのではないかという誤解です。この誤解は、太陽光発電に対してある程度知識があると推測される事業者(10kW以上)よりも、知識のない場合が多い家庭用(10kwh未満)に大きいと推測されます。

2012年7月1日に施行された再生可能エネルギー特別措置法により、太陽光発電の電力買取りが開始された当初の価格は、家庭用(10kW未満)が42円/kwh、事業用(10kw以上)が40円/kwhと電気料金の2倍近い高額なものでした。

参考:資源エネルギー庁「平成24年度の価格表」

この価格は、2012年当時の高額な太陽光発電の設置費用を反映し、買取り期間中に設置費用を回収できることを考慮して定められたものです。

その後、太陽光発電の普及拡大に伴うコストの低下に伴い、買取り価格は年々低下し、2021年度は、家庭用(10kW未満)が19円/kwh、事業用(10kw以上50kW未満)が12円/kwhと、電気料金と同等かそれ以下になっています。

参考:資源エネルギー庁「2021年度以降の価格表」

現在の買取り価格は、設置費用の低下を反映して十分に採算が取れることを考慮して設定された金額ですが、2012年当初の半分以下にまで低下し、今後も下がることが予想されます。当初から現在までの買取り価格のやや急激な低下が、一般家庭を中心に消費者心理として「遅く申し込んだ人ほど不利になる」という感覚と、年度の変わり目の「駆け込み需要」をもたらしていると思われます。このような経緯から、電気料金よりも低下しつつある現在は、「採算が取れないのでは?」と、不安に感じて設置を見送るケース少なくないものと推測されます。

「採算が取れないのでは?」という不安を払拭して、住宅の屋根への普及を再促進するためには、収支シミュレーションを数字で示しながら説明して、投資費用を回収できることを理解していただく必要があります。

太陽光発電を設置する事業者さんの内でも、大規模事業者さんは収支シミュレーションを用いた説明のノウハウを持っている傾向があり、比較的販売ができていると思われます。しかし、小規模事業者さんでは、収支シミュレーションへの投資が難しく説明のノウハウが少ない場合が多く、販売に苦戦していると思われます。

この事業者の規模による収支説明ノウハウの格差を解消して、住宅用太陽光の普及を再促進するためには、予算の限られている小規模事業者さんでも安価な値段で利用できる、収支シミュレーションを開発し、太陽光発電の設置を検討するご家庭に安心してご購入していただけるようにすることが必要です。

また、買取り価格が低下している現在では、売電よりも自家消費の方がより経済効果が高いので、洗濯機など消費電力の大きい電化製品を昼間に使う等、自家消費のメリットを購入するご家庭に説明することも必要不可欠です。

自家消費の促進のためには、余った電気のエコキュートや電気自動車への充電も推進していく必要があります。社会全体として再エネの自家消費を進めることは、後述の「要因3:出力制御により売電できないリスク」を解消し、太陽光を含めた全ての再エネを普及促進するためにも重要です。

原因2: 野立てと比較してメンテナンスに手間と費用がかかる

屋根置き型太陽光発電は、野立てと比べてメンテナンスに手間と費用がかかることも、普及が進まない大きな要因の一つと思われます。屋根置き型のメンテナンスコストが高くなる理由は、主に以下の2点によるものです。

1:集中管理がしにくいためコストがかかる

野立ての太陽光発電の場合、メガソーラーをはじめ大規模な設備が多いので、集中管理により効率を上げることで、メンテナンスコストを抑えることができます。それに対して屋根置き型の場合、小規模な設備が分散して設置される傾向があるため、集中管理がしにくくメンテナンスコストが高くなる傾向があります。

2:高所作業によりコストがかかる

屋根置き型太陽光パネルの本格的な点検や修理を行う場合、屋根の上で作業する必要があるため高所作業(※)となります。労働安全衛生法の規定では、高所作業では作業者の安全確保としてフルハーネスの着用が義務づけられるなど制限を受けるため、地上作業に比べて作業効率が下がりコストが高くなる傾向があります。屋根の形状によっては、足場を設置する場合や高所作業車を使用する場合もあり、さらに費用がかかります。

※高所作業:労働安全衛生法の規定では、地面から高さ2m以上の場所での作業

その他:メンテナンスへの誤解

その他にも、住宅用(10kW未満)においては、初期のメンテナンスへの誤解が現在の販売不振につながっていると推測されます。2012年の住宅用太陽光の余剰電力買取りが開始された当初は、販売を促進するため「メンテナンスフリー」であるという誤った宣伝広告が広められる傾向がありました。そのため2012年からしばらくの間は、メンテナンスフリーでランニングコストがかからないという誤った考え方広まり、家庭用太陽光の普及促進に悪い意味で一役買っていたと思われます。

しかしその後、経年劣化と共に発生するメンテナンス不足による故障が問題となり、2017年4月1日の改正FIT法により、10kW未満の家庭用太陽光発電にもメンテナンスが義務づけられました。このメンテナンスの負担が、買取り価格の低下と相まって家庭用の屋根置き太陽光発電販売不振の要因になっていると思われます。

解決策1

これらのメンテナンスコストの問題の解決策との一つとして、所有者(設置者)がある程度のメンテナンス知識を身につけて、簡単なメンテナンスは自ら行う(セルフメンテナンス)ことで、コストを削減する方法があります。

太陽光発電の故障は、初期の段階では発電量の低下という形で現れます。運用開始から、発電量のチェックを行い、季節ごとの発電量と比較することで、故障の予兆となる発電量の低下を発見可能です。発電量の低下で、故障を初期の段階で発見して適切な処置を行うことができれば修理費用は少なくてすみます。

日々の発電量のチェックなど、電気の専門知識が必要のない簡単なメンテナンスは所有者が行い、故障を発見した場合のみ点検業者によるI-Vカーブの測定など電気の専門知識が必要な点検を行うことで、メンテナンス費用を抑えることができます。

発電量のチェックは、室内の発電モニターでできるので高所作業は発生しません。発電量のチェックで不具合の予兆を発見した場合に初めて専門業者に依頼することで、業者の出張費用などメンテナンスコストを削減できます。

不具合の予兆を発見した場合、専門業者による地上の接続箱でI-Vカーブの測定を行うことで故障箇所を特定できます。I-Vカーブの測定の結果、高所作業が必要な場合は、場所を特定してピンポイントで行うことで費用を最小限に抑えることができます。

解決策2

もう一つの解決策としては、ドローンとAIを活用してメンテナンスの効率を上げる方法が考えられます。

メガソーラーなど大規模太陽光においては、ドローンで稼働中の太陽光パネルを撮影し、サーモグラフィックにより温度分布で不具合を発見する方法が実用化されています。

しかし、住宅用など屋根置きの太陽光の場合、規模が小さいので1件ごとに点検を行っていては効率が悪くコストがかかります。そこで、近隣の数十件の太陽光発電施設を一度に点検を行うことで、効率化によるコスト削減が可能です。

複数の町内を一括して行うなど、ドローンの1回の飛行で点検する範囲が大きくなればなるほど、1件当たりのコストは削減できます。ドローンの飛行に関する法的な問題や、メンテナンス契約上の問題、複数の異なるメーカーの太陽光パネルを同時に点検するための技術的な問題など解決すべき課題は多いと予測されますが、メンテナンスコストの問題を解決する上でも、ぜひ検討すべき方法であると思います。

原因3: 出力制御(出力抑制)により売電できないリスクがある

九州電力管内をはじめとする太陽光発電の普及が進んだ小規模電力系統においては、出力制御(出力抑制)のリスクも無視できない問題と推測されます。要因2で述べましたとおり屋根置き型太陽光は、メンテナンス費用が高くなる傾向があるため、野立てと比較して出力制御による経済的打撃を受けやすいと思われます。

出力制御の優先順位では、10kW未満の家庭用太陽光は保護される傾向があるのに対して、10kW以上の産業用太陽光が先に対象となる場合が多いため、産業用太陽光が経済的打撃を受けやすい傾向があります。

出力制御優先順位の参考資料:

中国電力「優先給電ルールおよび同ルールに基づく 発電事業者さまの対応内容について」

※中国電力管内での、出力制御優先順位の事例です。3枚目の資料では、2018年7月12日

以降の申し込みの場合、10kW未満の家庭用よりも10kW以上の産業用が先に出力制御の

対象となることが示されています。

このことから、小規模電力系統管内において出力制御が、住宅以外の建物の屋根に設置している、10kW以上の産業用太陽光に経済的打撃を与えて普及停滞の要因になっている可能性があります。過去の再エネを題材にしたドキュメンタリー番組でも、出力制御が太陽光発電の普及を推進する企業の経営に悪影響を与える場面がありました。

参考ドキュメント番組:

テレビ東京 ガイアの夜明け2018年10月23日放送「どうする?日本の電力」~「再生可能エネルギー」知られざる裏側

 ※上記リンクでは、番組の概要が紹介されています。

前半の「作った電気が捨てられる!?知られざる日本の電力の“影”」では、原発事故をきっかけに太陽光発電の普及を推進してきた高い志を持つベンチャー企業が、出力制御により経営に大きな打撃を受けている場面が紹介されており、番組を見た当時は大きな衝撃を受けました。

これまで、再エネの出力変動を吸収するために、出力制御の最前線に立ってきたのは火力発電です。今後、CO2 削減のために火力発電を再エネに置き換えていけば、再エネの出力制御の発生頻度がさらに多くなり、最終的には東京電力管内など大規模電力系統管内でも発生することが懸念されます。そうなると、屋根置型の太陽光発電だけにとどまらず、再生可能エネルギー全体の普及に悪影響を及ぼしかねない大きな問題となります。

再エネ全体の普及に悪影響をおよぼす出力制御を減らすためには、自家消費の推進、各電力系統間を繋ぐ連携線の強化、蓄電設備の整備など、費用対効果の最適化を図りながら様々な対策を同時並行で進めていく必要があります。

まとめ

今回は、屋根置き型太陽光の普及停滞について、3つの要因とその解決策について述べさせていただきました。

屋根置き型太陽光は、野立てに比べて人の手が届きにくい位置にあるため、メンテナンス面を始めデメリットを抱えています。しかし、屋根置き型太陽光は土地を有効活用できるので、野立て太陽光よりも環境負荷が少ないという大きなメリットがあります。

野立ての太陽光発電は、乱開発により逆にCO₂を吸収する森林を破壊してしまう場合があるなどの問題があります。2050年のCO₂排出量ゼロを達成するためにも、屋根置き型太陽光普及の妨げとなる問題を解決し、使用できる全ての建物の屋根を有効利用していく必要があります。

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